菊花が一人で物置で寝ると宣言してから、一夜が明けた。日美香と一緒に朝ごはんを作りながら、菊花が起きてくるのを待つ。
今日は大学が休みだし、他の予定もない。それでも、普段はもう三人が揃っている時間だから、起こしに行くか迷う。
ただ、昨日あんな思いをさせてしまったから、自分から起こしに行くのは躊躇われる。なんて迷っていると、廊下の方から物音がして、数秒後にはリビングに菊花が顔を出してきた。
「おはよう。ご飯、できてるよ」
「ありがとう。手伝えなくてごめんね」
「気にしなくていい。今日は私と日美香が当番なんだからな」
お互い、露骨に昨日の話題を避けて通る。どう考えてもなかったことにはできないし、なかったことにすべきではないのに。
「菊花……その、昨日はごめんね。あのあと、蓮に菊花が思ってたこと、こうだろうって説明されて、私ものすごく無神経なことたくさん言っちゃって……本当にごめんなさい」
なんてことを思っていたら、いつも通りの日美香が風穴を開けてしまう。
「いいよ、短期的にはものすごくもにょもにょってしたけど、持続的には気にしてないから。日美香が言うことだしね」
「そうなんだ。なら、よかった」
何がいいのかわからないけど、日美香的にはこれでいいらしい。というより、菊花にこう言われて、”丸く収まった”と解釈してしまうのが、日美香らしさ。
懇切丁寧に説明すれば、その場は的確に理解してくれるけど、他の場面に応用が利くことは絶対にない。知識自体は身についていっているはずなのに。
でも、そこが改善されたら、私たちの関係は凍りつく。日美香が無神経にも突っ走ってくれているおかげで、私たちはなんとか破綻を瀬戸際で回避している。
「とりあえず、食べるか?」
「お腹すいたし、そうしたいな」
険悪一歩手前の空気に耐えられなくて、適当にそれらしい流れで話題を逸らす。そうして、不自然な流れで、普段通り、三人揃っての朝食の時間が始まる。
二人で使うには充分だけど、三人で食事をするには気を遣うテーブルを囲む。自分の手で作った朝食のはずなのに、自分がいま何を食べているのか即答できない。それくらい、食事に集中できない。
それは、日美香と菊花も同じみたいで、なんとなく二人とも上の空。”一日前の出来事”が、ここまで尾を引くことはほとんどない。思い当たるとすれば、私があの子を押し倒してしまった、あの出来事くらい。
菊花は私と違って、手が出るタイプじゃないから、今回はあそこまで派手な展開にはなっていない。その代わり、世界が深海の底に沈んでしまったような、言いようのない閉塞感が辺りに立ち込めている。
「……昨日はよく眠れたか?」
「慣れてない環境にしてはね。二人は?」
「まあまあかな」
「私はぐっすりだったよ」
こういう時は、気を遣ってそうでもなかったと言った方が感じが悪くないと思う。だけど、この程度のことで嘘をつくのは、それはそれで繊細すぎるような気もする。日美香が察しが悪すぎるのは事実。一方で、私や菊花が気にしすぎなのも事実としてあって。実は私たち三人は、そんなに相性がよくないのかもしれない。
「……なんか言いたいことがあるなら、言えばいいのに。私はちゃんと聞くよ」
日美香は相変わらずだから、何かを避けてはいない。そんな器用なことはできない。でも、私はできる。それが逆に癇に触るということも往々にしてある。無神経にど真ん中を撃ち抜いてくるとよりも、その周辺をチョロチョロされる方が鬱陶しいことが。
「…………それじゃ聞くが、菊花はあの子のことをどうしたいのか、決まったのか?」
器用に避けて通ることはできても、真ん中をうまく貫くのは得意じゃないから、日美香よりもよっぽど無神経な聞き方になってしまう。それを菊花はいつも許してくれていたけど、
「昨日言った通り、としか言いようがないな。私は私だし、あの子だって私。それ以外の解釈ないよ」
「……でもそれじゃ、私が納得できないんだ」
「私も、いまの菊花とあの子を同じだとは、思いたくないよ」
「二人はさ、あの子、あの子って言ってくれて、それが優しさだし、好きなところだよ。でもね、記憶喪失に一度でもなったら、元の人格はひとつの、自分だけの人生を送っちゃいけなくなるっていうのも、あの子が世界にされたのと同じくらい理不尽なことじゃないのかな?」
菊花が言っていることは、正しい。あの子と同じくらい繊細で、頭が切れる菊花だから、その気になったらいくらでも倫理的に正しいことを紡ぎ出せる。
私と日美香があの子のことを大切に想い続けていること、それ自体はあの子を喰らった菊花の望みでもあったんだろう。だけど、幸せを感じられる閾値を昨日、私たちは超えてしまった。
「……菊花が言ってることは、最もだと思う。でも、あの子に、諦めないって誓ったんだ。だから、なんとかならないか?」
「私に”なんとか”を要求するならさ、二人も少しくらい”なんとか”してほしいな。私はあの子だから、二人があの子を想ってくれる分だけもっと幸せだけど、私の存在を否定するのは、さすがにだよ」
菊花の気持ちは痛いほどわかる。私と日美香が菊花に求めていることは、あの子が世界にされたことと同じことだって。そのことを誰よりも理解しながら押し通そうとしているのは、あの子が世界にされていた仕打ちよりも、よっぽど残虐だろう。
あの子が世界にされていたことは、そのほとんどが無自覚によるもの。記憶喪失後の人格について、深く考える機会なんて普通ないから、誰もが日美香のように無神経になってしまうだけ。
それに対して、いま私たちが菊花にしていることは、完全に自覚的。残酷だとわかっていて、あの子を喰らった菊花に人生を諦めてと、人生の一部を差し出してと頼み込んでいる。
「…………そういうことならさ、あの子にこだわり続ける私と日美香のことなんか捨てて、別の人を見つけた方が、菊花は幸せなんじゃないのか?」
そうして、考えた末に絞り出した私なりの答えが、これだった。あの子のことを諦めることはどうしてもできそうにない。かといって、菊花を傷付けたくもない。となったら、私と別れる以外に解決法が思いつかなかった。
「よくそんな酷いこと言えるね。私は二人のこと、昔もいまもずっと大好きなんだけど。勝手に私の人生を決めないで。仮に私が二人別れるとしたら、その後も二人は付き合い続けるんでしょ? それじゃ、二人をくっつけるために、私が人生削っただけになるよね? 私が二人と別れるなら、蓮と日美香も、二度と会わないこととセットだよ。当然だよね? 三人で付き合ってるんだから、一人だけ別れるなんて、道理に反してるよね? 破綻するなら三人同時だよ」
私がまた、言いすぎたんだろう。そうでなければ、菊花がこんなことを言うはずない。この世の誰よりも、この三人で一緒に生きていくことを望んでいるのは、菊花だろうに。そんな菊花にこうまで言わせてしまうほど、私が追い詰めたんだろう。
「そ、それはそうかもしれないけど、なにもそこまでしなくても……」
「……いや、菊花の言う通りだよ。そこまで考えられてなかったけど、その選択肢も、後で日美香と話し合っておく」
「蓮のことだからわかってて言ってるんだろうけど、私はいまの言葉を本気で言ったし、冗談のつもりもないけどさ、真剣に考えてほしいわけじゃないんだけど」
「だとしても、考えもしないのは誠実じゃないだろ」
「くだらないと思わないのかな? 全員一緒に不幸になる選択肢を、わざわざ選ぶなんて」
「…………三人で一緒の授業を取ってるし、同じ大学だから、会わな異様にするのは難しい。だから、仮に別れるとしても、卒業までは三人で一緒にいよう」
「ずいぶんと、私の言いたいことがわかってるね。それなら、あの子のことも、もう少しなんとかならないのかな?」
「ちょ、ちょっと、二人ともどうしちゃったの!? 言ってることおかしいよ! 菊花だってさ、ほら、人って人生の三分の一を寝て過ごしてるんでしょ! あの子に三分の一くらいなら、あげてもいいじゃん! 別れるよりはよっぽどいいよ! そうだよね!?」
日美香は素直だから、私たち三人が別々の、交わることない人生を歩む未来を想像して、泣き始めてしまった。これにはさすがに、私も菊花もいたたまれなくなってくる。好きな人の涙は、常理を容易に捻じ曲げるだけの引力がある。
「……突拍子もないことを言い過ぎたな。すまない」
「私こそ……ごめん。三人で一緒にいたい気持ちが強すぎて……」
「二人とも言い過ぎただけだったの? それならそうと、早く言ってくれればいいのに」
相変わらず、言葉を文字通り受け取っている日美香。でも、今回ばかりはそれが正解だと思う。こんなことを生真面目に考えたって、埒が開くわけない。たとえ、このまま三人一緒を続けていくことが難しいという現実が、何も変わっていないとしても。
「ごちそうさまでした」
居心地が悪いのか、真っ先にご飯を食べ終えた菊花は、食器を台所に運んですぐ、リビングを出て、この家の中で数少ない一人きりになれる場所である、物置部屋へと戻っていく。
引き止めようかとも考えた。だけど、私と日美香が、あの子に執着することで菊花をここまで苦しめると知った上でどうするのか、決めあぐねている。そんな状態で話をしても、余計に傷付けるだけだ。
「菊花、機嫌悪いのかな?」
「そういう次元で治ってるわけないだろ……私たちがどうしたいのか、改めてよく考えないとな……」
「さっきの、別れるって話のこと? 私、そんなのイヤだよ……」
「それは私もだよ。だけど、あの子を諦めないつもりなら、菊花が本気でそうすることも受け入れないと」
「それはそうかもしれないけど……」
日美香は、あの子を菊花だと信じて献身的に支えていた。それでも、まだあの子に対して菊花に向けているのとは違う特別を抱いたまま。そのことに少し安心する。私一人だけが、あの子を求めているとしたら、酷いわがままを菊花に押し付けているみたいで、自分を強く保てる自信がない。
でも、それが菊花にとっては辛さになっている。大切な人二人に、自分の人生を諦めてほしいと言われたら、私だったら別れを切り出している。
日美香に言われるのなら、これくらいはいつものことだと考えて、思いを伝えるか、我慢するくらいで妥協すると思う。だけど、菊花に言われたら、色々考えた上で、それでも妥協できないということだから、自分の人生を守るためには、もう別れるしかない。
あの子も菊花も、当たり前のことだし、当然の権利だけど、自分の人生をとても大切にしている。今回のことで、さすがの菊花もいつもの自己犠牲を発揮するとは思えないし、そうしてほしいとも思わない。他人の感情よりも、自分の人生を優先してもらわないと、一緒にいてこっちも同じことをしないといけない気がして、しんどい。
その結果、ようやく付き合えた日美香と別れることになったら、さすがに辛いけど、それ以上の苦悩を菊花に与えているんだから、受け入れるのが筋だ。というより、三人一緒に……二人でいることすら諦める覚悟もなしに、菊花にあの子であることを求めるのは、菊花にだけ犠牲を強いすぎている。
実際に人生を失うのは菊花であり、あの子だからこそ、私と日美香も人生捨てる気持ちで臨まないと、いくらなんでもフェアじゃない。
※※※
まぶたの開閉を数回繰り返して、ようやく意識を取り戻したことに気付いた。それくらい、わけのわからないことだらけだった。私の世界の全てだった病室ではないし、世界の角度に馴染みがない。
ちょっと無理をすると痛みが走るから、そうならないよう気をつかいながら首を動かしてみると、どうやら私は、”椅子に座っている”みたいだ。
座るという行為を行えている自分に違和感しかない。私が知っている私は、上半身を起こすのが精一杯。だから、座った状態で見る世界が新鮮……ではなく、違和感しかない。
違和感と言えば、体が自由に動くらしいことにも違和感がある。初めてのことだから要領を得ないけど、全身が動くし、痛くない。不自由極まる身体しか知らないから、逆に動かし方がわからず、窮屈さすら覚えている。ベッドの上であれだけ渇望した健康な肉体だというのに、わがままなことだと思う。
普通は自分で毎日少しずつ頑張って、ちょっとずつ健康な肉体を取り戻していくはずだから、そんなに違和感なく動けるんだろう。でも、私は菊花に頑張りを奪われるのが耐えられなくて、リハビリをサボっていたから、不自由から自由への過程が完全に欠落している。だから、普通がままならない。
どうやら、私が菊花に喰べられている間に、菊花がリハビリを頑張ってくれたみたいで……何がどうなってまた目覚めることができたのかわからないけど、菊花に頑張りを奪われるんじゃなくて、菊花から奪う側になっていた。
ずっと恐れていたこと、嫌悪していたことをする側になった。一方的に踊り喰いにされた私が、菊花から努力を奪って気分爽快!とはならない。むしろ、気分が悪い。肉体の違和感のせいじゃなくて、やっぱり、自分の力で成し遂げることにこそ価値があるんだと思う。それがたとえ、マイナスをゼロに戻すだけだとしても、誰かに代行してもらうのは納得感がない。正の理不尽……と表現すればいいのだろうか。それは、あまり良い味ではないみたい。
こんなことなら、真面目にリハビリしておくんだった。あれからどれだけの時間が経ったのかわからないけど、菊花に喰べられた時期からすると、真面目にリハビリをしていたとしても、健康にはなれなかっただろう。それでも、時間の限り精一杯頑張ったという事実は残せた。
それにしても……ここはどこだろう。驚きすぎて、困惑することもできなければ、再びの生に慶ぶこともできない。
とにかく、状況がわからない。拘束はされていないけど、誘拐されていて、そのショックで人格が蘇ったとか、記憶がまた消えたとか……そういう可能性もある。実際、痛いのが普通だったから見逃していたけど、後頭部が少し痛いような気がする。
この物置? のような部屋を出て、現状を確認しようと思って、立ち上がろうとする。その瞬間、勢い余ってでもなく、バランスを崩したのでもなく、前転をするように体が椅子から投げ出された。
”立ち上がる”という行為それ自体は、蓮や日美香がしているのを目にしたことがあるから、知識としては知っている。だけど、自分のものになっていない。むしろ、いきなり活発に動ける肉体を渡されたものだから、制御が効かず、暴走する自分を止められない。
健康な身体に憑依できたのはいいけど、結局、私はこの身体に慣れるためのリハビリをすることになりそうだ。
部屋を出ると、そこは一本の廊下があった。内装といい、空気感といい、普通のアパートかマンションのようにしか思えないけど、油断はできない。
と思っていたら、廊下の奥にあるリビングと思われる場所から、馴染みのある声が聞こえてきた。蓮と菊花の声が聞けたことに心が解けていくのを感じる。
見知らぬ空間で、大好きな人の声が聞けたというだけじゃない。私として、二人の声を聞くことは二度とないと完全に諦めていた。この奇跡に感謝しながら、廊下の壁を伝って、リビングの扉を開ける。
そこには、期待通りの二人がいた。二人に会うのが一ヶ月なのか、数年ぶりなのかわからない。体感では一瞬の出来事だったけど、また会えたことに涙が溢れそうになる。
とにかく、この感情を伝えようと声を発しようとした瞬間……悪い予感が走った。この身体の様子から察するに、二人は私の記憶を取り込んだ菊花と短くない時間を過ごしていた。だとしたら、私はいらないものにされている可能性がある。
だって、私は存在しちゃいけない心。二人が優しいから、愛してくれただけ。その愛し合っていた時間も、ごく短いものでしかなかった。二人が菊花と過ごしていた時間と、私が喰われている間に菊花と過ごしていた時間の方がずっとずっと長い。
この家に三人一緒ということは、多分、蓮と日美香と菊花の三人で住んでいる。つまり、私と菊花の提案通り、三人で付き合っていたとみて間違いなさそう。そんな環境で過ごしていたということは、二人は私が菊花に喰われたことを、どんな形であれ受け入れていたのだ。いまさら私が出てきたって、正直迷惑だろう。
なんかそれらしい劇的な復活の前兆があれば話は別かもしれないけど、どうやらそういう雰囲気じゃない。リビングに入った私を見つめる二人の視線は、日常そのもの。菊花ではなく私が登場したことへの反応が見て取れない。
「……どうしたんだ、そんなところで固まって……って、それもムリないか。あんな話をした後だしな……」
なんかよくわからないけど、蓮は菊花と大切な話をしていたらしい。となると、なおさら私だって言い出し辛い。大切な話なんて、三人の将来のことで間違いない。そこに私が入り込む余地なんてない。
この感情に名前をつけるとしたら、安直だけど絶望としか表現できない。こんなことなら、目覚めない方がマシだったとさえ思う。寝起きでいきなり、こんな冷水を浴びせられるくらいなら、死に等しい眠りの中で、そっとしておいてほしかった。
「いや、なんかおかしいよ。壁に手をついて……もしかして、体の動かし方がわからない、の!?」
日美香が、私の仕草から理詰めで答えを導き出す。私だと分かってもらえたことが嬉しいような、恐怖のような……だけど、日美香の言葉には、私が目覚めたことへの非難は読み取れなかった。むしろ、喜んでくれているようでさえあった。
それは蓮も同じで、私が私であることを予感しても、私の死を望むような目で見ないでくれている。
「…………お久しぶり、です。体感としては、一瞬だったんですけど、それなりに時間、経ってますよね……」
どういう言葉遣いをすればいいのかすら、よくわからない。なにせ、最後に二人と話したのは、菊花に心を乗っ取られているような状態だったから。自分らしさがどこにあるのか、よくわからない。
それでも、二人の反応が、想像していたよりもずっとずっと好意的だったから、勇気を絞り出して私だと告白する。
「やっぱりそうだよ! 昨日、私が言った通り、菊花があの子と会話できないか、一人で試してくれてたんだよ、きっと」
「いや、さすがにないと思うが……」
「私も、菊花と会話した記憶はないです」
「そうなの!?」
なにがなんだかわからないことだらけだけど、とにかく、私の存在を二人に呪われなかったことに安心する。二人は二人のまま、私のことを想い続けていてくれた。それだけで救われる。私が菊花に喰われたことを、私だけの問題じゃなかった。それが分かったことで安心したのか、少し体がふらつく。
「大丈夫、って、血出てるじゃん!」
「……血、ですか?」
「お前、なにやって……って、多分菊花がやったんだろうな。いつも無茶苦茶しやがって……」
蓮は救急箱を取ってくると言って、足早に廊下を走って行った。
「後頭部を殴った痕があるね。痛くない? 大丈夫?」
「頭が痛いのには慣れてますから、平気です。後頭部を殴ったということは、菊花がもう一度記憶喪失になるために、自分で自分を殴った、と?」
「状況的に、そうなんじゃないかな」
菊花が私のためにそこまでした……とは考えにくい。そこまで私のために身を削るなら、最初からあんな復活の仕方はしない。つまり私の目覚めは、私のためではなく、蓮と日美香のためだ。
どうして私が目覚めることが二人のためになるのかわからない。確認しないといけないことがたくさんある。でも、慎重に行動しないと。私が菊花に期待されている役割を果たしたら、きっとまた喰われてしまう。
菊花の正体不明の目的を無意識で満たさないようにしつつ、状況を探る。数ヶ月ぶりと思われる寝起きでこなすには、ちょっとハード過ぎないかと思うけど私の人生はいつだってハードモードだ。