記憶喪失と言えば、記憶を取り戻すことがメインテーマとなりがちなジャンルですが、本作の主人公は記憶を取り戻すことに積極的になれず、寧ろそれを求められることで追い詰められていました。
人を構成するものとして記憶が不可欠であるなら、それを失った本人が記憶を再び取り戻すことは記憶喪失中の自分が消えることなのでは?記憶喪失を鋭い視点で捉えた波乱の三角関係の物語を是非ご覧ください!
《あらすじ》
交通事故で記憶を失った大学生の朝霧菊花は、自分が朝霧菊花であるという実感が持てないままに、入院生活を送っていた。
何一つ思い出を共有していない菊花の母親に、大学で出会った菊花の婚約者である朝日日美香。
彼女たちの振る舞いから、確かに菊花と親しかったことは頭では理解しつつも、記憶を失った影響で心は付いてこないまま、周囲の人間が語る菊花像と記憶を失った後の自分との違和感までも募り、孤独感だけが募っていく。
菊花であることを求められる中、お見舞いに訪れた菊花の友達である水橋蓮だけが、記憶を失った菊花を菊花ではない新しい人間として見てくれたことが、蓮に心を惹かれ始める。
菊花であることを求めてくる婚約者の日美香と、菊花ではなく新しい人間として接してくれる菊花の友達の間で、菊花の心は揺れ動いていく。